三菱自動車のRVR開発担当部長の諭旨退職の真の問題点とは?
三菱自動車のRVR開発担当部長が開発の日程を守り切れなかったため、責任を取り諭旨退職したというニュースがYahooトップで取り上げられていた。
なぜ諭旨退職になったのか
まず、三菱自動車で、どのような問題が発生したのかということを振り返っておこう。報道内容を整理すると、発生した問題は次の通りだ。RVRという車種のフルモデルチェンジを2016年に行う計画であったが、開発に失敗し、車両の重量が想定より増え、結果的に燃費や二酸化炭素排出量といった目標の達成が難しくなった。そのため、開発をやり直し、フルモデルチェンジを3年先に延ばすことを余儀なくされた。
RVRは、三菱自動車の販売の約2割を占める看板車種である。2014年の実績でいえば、世界総販売台数109万台のうち、20.5万台がRVR系の車種である。
販売の2割を占める車種のフルモデルチェンジが3年も遅れることになると、会社の業績に与える影響は決して小さいものではないであろう。
しかしながら、諭旨退職というのは、「会社が定めた期限までに退職届を出せば自己都合退職扱いになるが、そうしない場合は懲戒解雇になる」という極めて重い処分である。
Yahooニュースのコメント欄などを見ると、「厳しすぎるのではないか」「不当解雇訴訟をしたら会社が負けるだろう」などのコメントが見られ、そのコメントを支持する声も多数であった。
だが、私は、報道されている情報に基づいて判断するならば、今回の諭旨退職処分は不当なものではないし、仮に不当解雇訴訟が起こったとしても、解雇相当として会社が勝訴するのではないかと考えている。
ただし、ここで注意してほしいのは、私は、「会社の業績に大きな影響を与える問題を引き起こしたから開発担当部長は諭旨退職になって当然だ」ということを言いたいわけではないということだ。
確かに、大きな問題を引き起こしたのだが、自動車会社において新車の開発というのは、原則として、いち社員に責任を負わせることができるような仕事ではないからである。
私はサラリーマン時代、自動車関係の会社で働いていたので良く分かるのだが、1台の新車を開発するにあたっては、多数のエキスパートがプロジェクトチームを組み、「どのようなデザインにするか」「デザインしたものを実際に金型で成型できるのか」「衝突安全性は大丈夫か」「どの協力会社から部品を調達するのか」「生産ラインはどのように組むか」など、議論を重ねながらようやく実現できるものだ。
そして、誰かがプロジェクト全体をまとめなければならないので、開発責任者の存在は確かに必要だが、責任者だからといって全ての責任を負わせるのは酷である。
だから、開発責任者に人事考課上の不利益があるのはともかく、今回のように新車の開発に失敗したからといって、トカゲの尻尾切りのように退職させたとあらば、裁判所も不当解雇と認定するであろう。
「虚偽報告」は重大な違反行為である
では、今回は何が問題だったのだろうか。それは、「開発担当部長が、事実を正しく報告しなかったこと」に尽きる。
これこそが、私が諭旨退職もやむなしと考える理由である。
通常、自動車のフルモデルチェンジの企画というのは4、5年位前から始まる。つまり、市場に新車が投入された直後から、自動車会社の舞台裏では次期モデルに向けての動きが始まっているわけだ。
数年をかけて開発を進め、要所要所で会議を開きながら、技術的に問題がありそうなところがあれば洗い出し、それを克服するための新技術を考えるか、難しければ図面を修正するなどして、市場へ供給可能な車に仕上げていく。
その会議で、事実が正しく報告されなければ、開発の方向性は大きく歪んでしまう。
そして、今回の虚偽報告が発覚したのは販売開始の1年前ということだが、通常の開発スケジュールでいえば、金型や組立ロボットなどの生産設備もあらかた手配し、「さあこれから量産に向けて頑張ろう」という段階であろう。
そうすると、市場に新車を投入することが遅れる機会損失だけではなく、設計のやり直し、金型の作り直し、協力会社への部品発注の見直しなど、社内の損失はもちろんのこと、協力会社を巻き込んだ大問題に発展することが不可避であるのは想像に難くない。
もちろん、これが、正しく事実を報告した上でも起こってしまったアクシデントならばやむを得ない。そのような場合であれば、その開発計画を承認した役員側に責任があると言えよう。
だが、今回は、開発担当部長の虚偽報告によって、適切な意思決定が行われず、それが会社の根幹を揺るがすほどの重大な影響を及ぼしてしまったわけであるから、開発担当部長の過失は大きく、発生した結果の重大性を鑑みても、諭旨退職もやむなしと考えられるわけだ。
事実を正しく報告するというのは、会社員として当然に行うことであり、どのような事情があったにせよ、許されることではない。
さらなる調査が必要
ただし、会社側にも調査をすべきことがある。それは、開発担当部長に過度のプレッシャーを与えていなかったかということだ。
東芝でも、粉飾決算騒動が起こってしまった原因はトップからの「チャレンジ」という過度の利益改善要求にあった。
それと同じように、直接間接のプレッシャーを含め、「開発日程は何が何でも守り切れ」とか「遅れは絶対に許さない」というような雰囲気になっていなかったかということだ。
仮に、そのような空気が虚偽報告の引き金になったということであれば、むしろトップや役員のほうが、開発担当部長よりも重い責任を負うべきであろう。
なぜ、開発担当部長が虚偽報告に走ったのか、その真相が明らかになることを願ってやまない。