HRテクノロジーの爆発的普及に必要なのは「ディーラー」と「学校」である

投稿日:2019.01.04|カテゴリー: IT・クラウド

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「勤怠管理」、「給与計算」、「社会保険や雇用保険の資格取得・喪失」といった人事労務を自動化や効率化させるクラウドソフトが次々と開発され、これらは「HRテクノロジー」と総称されています。HRテクノロジーは日進月歩で進化しており、働き方改革においても大きな期待が寄せられています

HRテクノロジー普及のネックになっているもの

 

2018年を振り返ると、HRテクノロジーが企業へ浸透するスピードは、徐々に加速がつきつつも、まだ爆発的な普及と言えるまでには至っていません。

そこで、この記事では、2019 年を起点に、HRテクノロジーを爆発的に普及させるための対策について筆者の見解を述べさせて頂きます。

まず、普及のネックとなっている理由を端的に述べますと、「良い商品はあるものの、エンドユーザーに提供するためのインフラの整備が追い付いていない」ということが最大の理由だと考えます。

現在、勤怠管理領域のKING OF TIME、給与計算領域の人事労務freeeやマネーフォワードクラウド給与、人事労務手続領域のSmartHRなど、高性能のHRテクノロジーが数多く存在しています。

しかし、これらのソフトを導入したり、初期設定をしたりすることを支援するインフラがまだまだ充分ではありません。

東京都内の先進的なIT企業などであれば、もともと経営者や人事労務担当者のITリテラシーが高いことが多いので、良いHRテクノロジーを見つけたら、抵抗感なく自力で使いこなしていることも珍しくありません。しかし、それは例外的な事象と考えるべきです。一般の中小企業がHRテクノロジーを導入しようとした場合、自力での導入が困難なのはもちろんのこと、電話やチャットのサポートだけでは苦しいのではないか、というのが筆者の実務感覚としての印象です。

導入支援のためのテレビ会議が設定されることもありますが、それでも細かい部分は「動画やマニュアルを見て、会社さんのほうで設定をしてみてください」という形で終わってしまうことも多く、やらなければならないことは分かっても、具体的に動き出すことが難しいというケースもしばしば見受けられます。

それならば、HRテクノロジーの運営元が導入支援のスタッフを企業に訪問させて、その場で導入支援をすればよいではないか、という意見が出てくると思います。

しかし、HRテクノロジーはクラウドソフトであるがゆえ、比較的小人数で集中的に開発・運営されていることが多く、訪問型の支援はマンパワー的に厳しいことが予想されます。また、HRテクノロジーはITの知識だけでなく、労働法などの法律にも精通していなければ深い意味での初期設定の支援はできませんから、マンパワーだけでなく、ノウハウの面でもネックが生じていると考えられます。

このネックを解消することに、HRテクノロジーの爆発的な普及の鍵があるのではないでしょうか。

 

自動車メーカーのみでは自動車は普及しなかった

 

ここで、例え話になるのですが、筆者は自動車業界の出身です。社会保険労務士になる前は、自動車関係の企業の経営企画室などに在籍をしていました。ですので、自動車業界になぞらえてたとえ話をさせて下さい。

自動車メーカーといえば、「トヨタ」「ホンダ」「日産」など、様々なメーカーが自動車を生産しています。しかし、メーカーがいくら良い車を生産しても、それを売る人がいなければ、自動車は在庫として工場の裏庭に並べられるだけです。

もちろん、そうなっていないのは「売る人」としてディーラーが存在するからです。ディーラーは全国各地に散らばり、それぞれの地域の消費者と向き合っています。メーカーの工場で集中的に生産された自動車が、ディーラーによって日本中まんべんなく販売されているのです。日本中どこにいても、ディーラーを経由して安心して車を買ったり、車の調子が悪いときは相談したり整備を受けたりすることができます。

しかし、自動車の販売網が全国にいきわたっていたとしても、人々が自動車を運転できなければ、誰も車を買うことができません。自動車の運転を教えるインフラとして自動車学校が存在します。確かに、運転免許センターでの「一発試験」も存在しますが、合格は困難だと言われており、自動車学校の存在無しに、モータリゼーションの到来は無かったでしょう。

加えて、自動車が走るべき道が存在しなければ、「宝の持ち腐れ」になってしまいますから、道路網の整備も当然、自動車の普及のバックボーンとなりました。

このように、自動車が普及したのは、自動車メーカーの努力だけではなく、ディーラーや自動車学校の存在、そして道路網の整備という、様々な要素が揃ったからこそだということです。

 

HRテクノロジーにも「ディーラー」と「学校」が必要

 

この考え方は、HRテクノロジーの普及にもそのまま当てはまります。

自動車は、乗り始めるための運転技術を最初に学んだり、自分に合った車を選んだり、車の調子が悪い時に整備をしたりと、ピンポイントで難しい場面がありますが、そのあたりを除けば、日常の生活の中で自分で快適に乗りこなすことができます。

HRテクノロジーも、使い始めで習熟するまでや、設定を変更するときなど、ピンポイントで難しい場面がありますが、いったん運用が軌道に乗れば、自社内で快適に利用することができます。

以下、自動車との対比で見ていきましょう。

まず、道路網の整備という点においては、既に光回線などのブロードバンドが普及しているので、この点は問題ないでしょう。

次に、自動車そのものに該当する「HRテクノロジー自体」も、高性能なものがどんどん開発されていますので、こちらも準備は整っています。

ところが、HRテクノロジーの世界には、現状、「ディーラー」や「自動車学校」にあたるものが存在していません。ここを改善することがHRテクノロジー普及に向けてのキーポイントではないでしょうか。

現在、多くのHRテクノロジーは、いわば「メーカー直販」という状態になっており、自動車に話を戻せば、トヨタやホンダの工場の軒先で技術者や製造スタッフが自動車を売っているイメージです。これでは小回りの利く顧客対応が困難なことは誰の目にも明らかです。

このイメージを持ったうえで、HRテクノロジーの世界においても、お客様に寄り添って、お客様のニーズに合ったHRテクノロジーの選定や導入支援、何かトラブルがあったときに身近な窓口になるHRテクノロジー版ディーラーを全国に置くことは、HRテクノロジー普及の大きな力になるはずです。

確かに、現在も少なからずのHRテクノロジーソフトで「認定社労士」などの制度は導入されています。「認定社労士」になると、HRテクノロジーの運営元のホームページに掲載されたり、見込み客の紹介を受けたりすることができます。しかしながら、まだまだ「顧客の紹介」や「紹介時のキャッシュバック」という段階にとどまっています。

「認定社労士」は日本全国に事務所を構え、専門家として労働法にも精通しているわけですから、この協力体制をさらに強固なものとし、「認定社労士」がディーラー的な役割を担うことができれば、HRテクノロジー提供会社にとっても、社労士にとっても、お互いメリットがあることだと感じます。

加えて、HRテクノロジーを使いこなすための、自動車学校のような「教育」の提供者も、現時点ではほとんど存在しません。HRテクノロジーを使いこなすためには、教育が非常に重要です。フィンテック以上に教育は重要です。というのも、フィンテックは経理担当者だけが理解していれば何とかなります。しかし、HRテクノロジーでは、人事労務担当者が理解しているだけでは足りません。電子タイムカードをアプリで打刻してもらうとか、年末調整の元データをインターフェースに入力してもらうとか、従業員も巻き込んだ教育が必要ですから、この「教育」という領域においても「認定社労士」が尽力できる場面がありそうです。

 

まとめ

 

ここまでの話をまとめると、HRテクノロジーの爆発的普及には2つの施策が必要だということになります。

1つは、HRテクノロジー版のディーラー網を全国に行きわたらせること。もう1つは、HRテクノロジーを使いこなすための担当者・従業員を含めた教育体制の整備です。この2つが整えば、働き方改革の追い風と相まって、HRテクノロジーは爆発的に普及していくのではないでしょうか。

そして、この施策の受け皿になり得る可能性が最も高いのは「認定社労士」です。筆者自身も傍観者ではなく、当事者意識を持って、社労士の1人として、このインフラの整備にどのようにかかわれるのか考えているところです。